woodenvalleyのブログ

日々感じた事や思った事。大切にしてる事。ふとした事。子供の事。

何でもないよ

何でもないよ

とランジット君が答えたのは、確かカメラマンが自身の状況について質問した時だったと思う。

ランジット君は当時14歳でインドの孤児が集まるセンターのリーダーをしていた。センターはNGOの支援下ではあったが、自立や責任感の育成を理由に少年少女だけの生活、また生活費も自らが働いて得なければならない状況。統率するだけでも大変な中、当然のように自身も朝から晩まで働き、また仲間が就労先から不当な扱いを受ければ、雇い主に交渉するなど走り回っていた。

そして毎晩全てが片付いた23時に、小学校の卒業資格を取得する為の勉強をしていた。彼には大きな夢があった。大好きな家族の為に家を建てるという夢だ。彼はその為に自ら10歳にして家族と離れて暮らす道を選択していた。

彼には戦う理由があった。それだけの覚悟があれば本当に何でもないのかもしれない。しかし彼はまだ14歳になったばかりだ。彼は恐ろしいほど早く戦う術や冷静な判断、哲学を完成させていた。対象物を確実に捉えた視線は真っ直ぐで堂々とし、美しい瞳は輝きに満ちているように見えた。

また彼は孤児達と共にチャイの店を立ち上げた。それは劣悪な就労環境に対する新たなアンサーであり、強烈なカウンターであり、これから快進撃を続ける狼煙のようにも感じられた。まさしくそのタイミングで青天の霹靂とも言える出来事が起こった。ランジット君の元に大好きな家族から連絡が来たのだ。それは帰ってきてまた一緒に暮らそうという夢のような提案だった。家族は農村から工業地域に引っ越し生活が少しは楽になったようで、それで晴れてランジット君を迎えにきたのだ。普通ならばこれでハッピーエンドで、物語ならば第何章目かの最高のエンディングとなるものだ。しかしランジット君は数日考えた結果、この申出を断る事に決めた。まだ帰る時ではないと判断した。自分にはやる事がまだまだたくさん残っている。事業も始まったばかりで高校にも進学していない。それからでも、またそれを経験した後の方が、家族の力になれると言い切った。

彼は迎えに来た家族を丁寧に見送り、再び仲間たちの元へ戻っていった。そこで番組はエンディングを迎えた。

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