ふいに。
ふいに口ずさんだゆりかごの歌にもうすぐ1歳になる娘が激しく反応した。
すぐ近くにあった父の写真に指を刺していた。そこには母も写っていたが、まるで確信的に父だけを指し続けていた。残念ながら彼女は祖父にあたる私の父を現実的には知らない。生まれる3年前に父は亡くなっている。
ゆりかごの歌は、私が幼い頃に父がよく歌ってくれたものだった。記憶の片隅にあったそれが何かの弾みで蘇り、私はたまたまふと口ずさんだだけで、彼女も初めて聞いたはずだった。それなのに娘は父に反応してくれた。
そうかそうか。娘は何度も父に会っているのか。そしてこの歌も彼から聞いていたのか。
常々私は、父に娘を会わせる事ができなかった事を悔やみ、申し訳なく思っていた。そんなある時、父からもう娘には会っているからというようなニュアンスを感じて、少し気が楽になった事があった。今日はそれを心底実感する事が出来た。だからその事でもう悔やむ事はしないでおこうと思う。
だからあなたも私に対して申し訳なく思う事は何一つしないでほしい。私の人生を誇れるように頑張るから。